こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。
10月5日(水)に開催された、「市民のための環境公開講座」の第6回についてレポートします。
第6回のテーマは、「土壌から考える気候変動と食糧危機」、講師は国立研究開発法人 森林研究・整備機構
森林総合研究所 主任研究員の藤井一至さんです。
今回のテーマは「土」です。非常に身近なものでありながら、あまり深く考えたことのない人が多いのでは
ないでしょうか?藤井さんの講義では土にまつわる目から鱗の知識から、非常にマニアックな情報まで、
今まで聞いたことのなかった情報が目白押しでした。そして、話題は土が私たち人類の文化や歴史に
及ぼす影響から、気候変動や食糧問題との関わりなど、ミクロからマクロに展開していきます。
このレポートでは藤井さんの繰り広げる土ワールドの一端をご紹介できればと思います。
そもそも「土」とは何でしょうか?
藤井さんの説明によれば、「岩石が風化してできた砂と粘土」と「植物が風化してできた腐葉土」が混合した
ものを「土」と呼ぶそうです。空気や水が隙間に入ってふかふかしたイメージです。この隙間に植物の根や
微生物が入ることで、多様な生物を育むことができる環境になります。
また、土は他所から飛んできたものではなく、その場にあるものが変質してできたものである、という点も
特徴です。現在では植物工場など、土がなくても植物を育てる技術がありますが、「その場で栄養が循環
する自立性と持続性」は土ならではの性質であり、実際に私たちが食べているものの95%は土由来だと
言われているそうです。
ひとことに土と言っても、世界各地の場所によってその性質は大きく異なります(いちばん大雑把に
分類しても12種類あるとのこと)。要因は様々ですが、気候、地形、岩石の種類や生物の種類等によって
土の性質は決定付けられます。ちなみに日本は「黒ぼく土」という火山灰がメインの土が多く、これが
日本の米やそばといった食文化に繋がっているそうです。
食の話に触れましたが、作物を育てやすいという意味での「いい土」とはどのようなものなのでしょうか?
通気性や排水性の高い団粒構造で、保水性の良い粘土質、phは中性で、生物多様性に富む病気が
発生しづらい土・・・と条件は数多あります。
そして、こうした肥沃な土がある場所は世界でも非常に限定されています。最も肥沃とされるのは
ウクライナのチェルノーゼム。ロシアの侵攻により食糧価格の高騰などがニュースになりましたが、
その裏側にはこうした事情があったと分かります。他にもパンパやプレーリー、旧満州地域など、
肥沃とされる土の所在を見ると、土地を巡って起こったこれまでの多くの争いが思い起こされ、
土壌が歴史に与える影響の大きさを感じます。
さて、土壌ごとの生産量が分かると、地球が何人までを養うことができるのか、その伸びしろを
計算することができてしまいます。水田であれば10㎢あたり3,000人分の収穫が得られると
されますので、世界の土壌面積を15億haとして計算すると、150億人までは暮らせるポテンシャルが
あるということになります。
まだ随分余裕があると感じてしまいますが、これは土壌の肥沃度が維持された場合の仮定です。
連作障害や肥料不足により、土壌の劣化は世界中で急速に進んでいます。また、農作業で土を耕す
ことでも、土の量は少しずつ減っているのです。
土はCO2の貯蔵庫の役割も果たしており、現在土壌に貯蔵されているCO2がすべて流出した場合、
空気中のCO2濃度は現在の3倍になるとも言われています。
徒に化学肥料を使うことは土壌からのGHG発生に繋がり、農作業で土を耕起すると土壌中のCO2が
排出されてしまうなど、食糧問題と気候変動の観点から、これからの土の扱いは慎重なバランス感覚を
要することが分かります。いずれもSDGsに向けた大きな課題ですが、これらを達成するためのキー
ファクターとして、「土」という視点を新たに持つことが必要なのかもしれません。
「市民のための環境公開講座」は全9回、11月までまだまだ参加者募集中です。
登録をしておけば後で録画視聴もできますので、少しでも興味のある講座がありましたらぜひ以下の
ホームページからお申込みください!
<市民のための環境公開講座・お申込み>
https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2022/
9月21日(水)に開催された、「市民のための環境公開講座」の第5回についてレポートします。
第5回のテーマは、「四国一小さな徳島県上勝町から広がるゼロ・ウェイスト」、
講師は株式会社BIG EYE COMPANY Chief Environment Officerの大塚桃奈さんです。
なんと本講座史上最年少の講師です(23歳)!
今回は上勝町にある「ゼロ・ウェイストセンター」での廃棄物に関する取り組みがテーマとなりますが、
意外なことに大塚さん自身は、上勝町に来る以前にゴミ問題について専門に学んでいたわけでは
ないそうです。元々はファッションに興味があり、留学して勉強もされていたそうですが、
デザインを追求する中でファストファッションに関連した様々な社会課題を目の当たりにし、
サステナビリティの分野に関心を持ったのだとか。そんな時に上勝町のゼロ・ウェイストの取り組みを知り、
ちょうど大学を卒業する年に設立された、ゼロ・ウェイストセンターに就職されています。
そんな大塚さんからは、講座の冒頭でこんな問題提起がありました。
「私たちが日ごろ何気なく使っているものを買うとき、また作るとき、それがゴミになってしまう可能性を
孕んでいることを意識していますか?」
私たちが日々使用している様々なモノは、当然ながら誰かが作ってくれたものです。
また私たちが日々作り出している様々なモノは、誰かが使うためのものです。
こうした「見えない誰か」との関係性に思いを馳せることが、「ゼロ・ウェイスト」の精神に繋がると
大塚さんは話してくれました。それでは、上勝町で大塚さんが取り組んでいるゼロ・ウェイストの
取り組みがどんなものなのか、以下で少しご紹介したいと思います。
ゼロ・ウェイストセンターのある上勝町は、人口1,450人、四国で一番小さな町と言われています。
標高100~500mの山々に55の集落が点在している、山深い町です。
そんな上勝町は、2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、「2030年までにゴミに
なるものをゼロにする」ことを宣言しています。
実は上勝町、以前はごみの焼却施設がなく、ほとんどのごみが「野焼き」にされていた地域でした。
しかし法律改正により野焼きができなくなり、導入した焼却炉もダイオキシン規制ですぐに使用禁止に
なってしまう・・・という苦境から、起死回生の対策として生まれたのが上記のゼロ・ウェイスト宣言でした。
つまり、ごみが処理できないのなら、ゴミを出さないようにしよう、という発想の転換です。
具体的な取り組み内容ですが、先ずインパクトがあるのは13種類45分別という、日本一多いと言われる
ゴミの分別方法です。中には「どうしても埋め立てをするもの」「どうしても焼却するもの」という分類が
あるのがユニークですが、ここに至るまでの過程を細かく分類することで、できるだけ多くの「資源化できる
チャンス」を作るための取り組みだそうです。
例えば生ごみはコンポストで肥料化する、不用品は「くるくるショップ」で必要な人に無料提供、その他の
ゴミは住民が自分で「ゴミステーション」に持参し、代わりに「ちりつもポイント」というポイントを付与する
ことで、資源ごみの換金で得た資金を住民に還元する仕組みも作られています。これらの施設が、
大塚さんの働く「ゼロ・ウェイストセンター」の中に備え付けられています。(中にはホテルもあり、
上勝町のゼロ・ウェイスト生活を体験することができます。)
結果として上勝町では、1人あたりが出すゴミの量が全国平均の半分、ゴミ処理にかかる費用は60%削減、
リサイクル率あ80%を達成したそうです。また、こうした取り組みが町のブランド化につながり、資源再生を
活用したビジネスが多く生まれたという効果もあったとか。
最後に、大塚さんからは「ゴミについて考えることは暮らしを整えること」という提言がされました。
モノを買うときに、できるだけ「ゴミにならないものを買う」、捨てる前に「資源として活用できないかを
考える」、こうした問いを自らに投げかける習慣をつけることで、生活の解像度が上がり、新たな豊かさを
手に入れることができるのではないでしょうか。
SOMPO環境財団・瀬川
9月7日(水)に開催された、2022年度「市民のための環境公開講座」の第4回をレポートします。
「認識から行動へ ―地球の未来を考える9つの視点―」をテーマとして、全9回でお送りしている
「市民のための環境公開講座」も中盤に入り、ますます注目です!
今回は株式会社クラダシ代表取締役社長の関藤竜也さんを講師に迎え、「誰でも気軽に楽しく
食品ロス削減に参加できるクラダシ」をテーマにお話しいただきました。
講座の前半では、現在の地球が直面している資源問題、ごみ問題、食料問題や気候変動などの
環境認識から、サーキュラーエコノミーやSDGsの考え方などについて丁寧なご説明がありました。
なかなかクラダシの事業についてのお話が始まらないので、そちらを目当てにされていた方の中には
あれ?と感じた方もいるかもしれません。
私もはじめ同じ感想を持ったのですが、お話を聞くうちに考えを改めました。
クラダシのミッションは「ソーシャルグッドカンパニーでありつづける」「日本で最もフードロスを削減する会社」。
そもそも事業の目的が「社会課題を解決すること」なので、社会課題についてしっかりと語ることは、
企業の成り立ちについて語ることとイコールなんだ、と気づいたからです。
関藤さんは、阪神大震災や商社時代の中国で見た大量生産・大量消費の現状を原体験に、
「ビジネスの力で課題解決をしよう」という思いで、クラダシを設立されました。
前段で語られたような環境問題の現状は、少し興味のある方なら誰でも聞いたことがある内容だと思います。
しかしそれを自らのミッションとして、会社を辞めて起業できる人はほとんどいないのではないでしょうか。
ミッションドリブンな企業とはこういうものなんだな、と感銘を受けるとともに、社会課題の解決をビジネスに
結び付ける考え方は、私たちの目指す「認識から行動へ」の新しい姿の1つと感じました。
さて、本題であるクラダシの事業は「賞味期限が残り少ない食品を、ユーザーに安く販売する」というものです。
非常にシンプルなコンセプトですが、賛同する食品メーカーはブランドアップや廃棄コストの削減、購入者も
食品ロスの削減に貢献しながら割安に買い物ができる、と誰も損をしないビジネスモデルです。
これだけであれば類似したサービスはあるかもしれませんが、個人的にはここに「社会貢献」のエッセンスが
加わっていることがクラダシならではと感じました。売上の一部を自分が選んだ社会貢献団体に寄付できたり、
フードロスの累計削減量が確認できたりと、ユーザーを社会貢献に巻き込む工夫が随所に凝らされています。
また、事業から派生した様々な社会課題解決の輪が広がっている様子も印象的でした。社会貢献型の
インターンシップ(クラダシチャレンジ)や、フードバンクの支援、教育事業、限界集落の支援など・・・。
特に、青森県のりんご農家がこれまで廃棄していたB級品をクラダシに出品したところ、年間90万円の
売上になった、というエピソードはインパクトがありました。フードロスの削減という1つの取り組みを
突き詰めていくことが、実は他の社会課題の解決にも繋がっていく、というお話は示唆に富んでおり、
他の様々な問題に取り組む際にも重要な視点になるのではと感じました。
フードロス問題に限らず、環境問題の大きな課題は「問題を知った人に一歩踏み出して行動をしてもらう」
ことだと思います。この点、クラダシの取り組みは「お得に買い物をする」という日々の消費行動に結び
ついており、「環境問題に取り組む」というハードルを消費者に感じさせず、むしろ「楽しい体験」に変化
させています。環境問題に取り組む皆さんにとって、大いにヒントになる講演だったのではないでしょうか。