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2022
10,18
17:04
市民のための環境公開講座 10月5日(水)第6回
CATEGORY[市民のための環境公開講座]

こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。

10月5日(水)に開催された、「市民のための環境公開講座」の第6回についてレポートします。



第6回のテーマは、「土壌から考える気候変動と食糧危機」、講師は国立研究開発法人 森林研究・整備機構

森林総合研究所 主任研究員の藤井一至さんです。



今回のテーマは「土」です。非常に身近なものでありながら、あまり深く考えたことのない人が多いのでは

ないでしょうか?藤井さんの講義では土にまつわる目から鱗の知識から、非常にマニアックな情報まで、

今まで聞いたことのなかった情報が目白押しでした。そして、話題は土が私たち人類の文化や歴史に

及ぼす影響から、気候変動や食糧問題との関わりなど、ミクロからマクロに展開していきます。

このレポートでは藤井さんの繰り広げる土ワールドの一端をご紹介できればと思います。



そもそも「土」とは何でしょうか?

藤井さんの説明によれば、「岩石が風化してできた砂と粘土」と「植物が風化してできた腐葉土」が混合した

ものを「土」と呼ぶそうです。空気や水が隙間に入ってふかふかしたイメージです。この隙間に植物の根や

微生物が入ることで、多様な生物を育むことができる環境になります。


また、土は他所から飛んできたものではなく、その場にあるものが変質してできたものである、という点も

特徴です。現在では植物工場など、土がなくても植物を育てる技術がありますが、「その場で栄養が循環

する自立性と持続性」は土ならではの性質であり、実際に私たちが食べているものの95%は土由来だと

言われているそうです。




ひとことに土と言っても、世界各地の場所によってその性質は大きく異なります(いちばん大雑把に

分類しても12種類あるとのこと)。要因は様々ですが、気候、地形、岩石の種類や生物の種類等によって

土の性質は決定付けられます。ちなみに日本は「黒ぼく土」という火山灰がメインの土が多く、これが

日本の米やそばといった食文化に繋がっているそうです。



食の話に触れましたが、作物を育てやすいという意味での「いい土」とはどのようなものなのでしょうか?

通気性や排水性の高い団粒構造で、保水性の良い粘土質、phは中性で、生物多様性に富む病気が

発生しづらい土・・・と条件は数多あります。

そして、こうした肥沃な土がある場所は世界でも非常に限定されています。最も肥沃とされるのは

ウクライナのチェルノーゼム。ロシアの侵攻により食糧価格の高騰などがニュースになりましたが、

その裏側にはこうした事情があったと分かります。他にもパンパやプレーリー、旧満州地域など、

肥沃とされる土の所在を見ると、土地を巡って起こったこれまでの多くの争いが思い起こされ、

土壌が歴史に与える影響の大きさを感じます。



さて、土壌ごとの生産量が分かると、地球が何人までを養うことができるのか、その伸びしろを

計算することができてしまいます。水田であれば10㎢あたり3,000人分の収穫が得られると

されますので、世界の土壌面積を15億haとして計算すると、150億人までは暮らせるポテンシャルが

あるということになります。


まだ随分余裕があると感じてしまいますが、これは土壌の肥沃度が維持された場合の仮定です。

連作障害や肥料不足により、土壌の劣化は世界中で急速に進んでいます。また、農作業で土を耕す

ことでも、土の量は少しずつ減っているのです。

土はCO2の貯蔵庫の役割も果たしており、現在土壌に貯蔵されているCO2がすべて流出した場合、

空気中のCO2濃度は現在の3倍になるとも言われています。

徒に化学肥料を使うことは土壌からのGHG発生に繋がり、農作業で土を耕起すると土壌中のCO2が

排出されてしまうなど、食糧問題と気候変動の観点から、これからの土の扱いは慎重なバランス感覚を

要することが分かります。いずれもSDGsに向けた大きな課題ですが、これらを達成するためのキー

ファクターとして、「土」という視点を新たに持つことが必要なのかもしれません。

 

 

「市民のための環境公開講座」は全9回、11月までまだまだ参加者募集中です。

登録をしておけば後で録画視聴もできますので、少しでも興味のある講座がありましたらぜひ以下の

ホームページからお申込みください!

 

<市民のための環境公開講座・お申込み>

https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2022/

SOMPO環境財団・瀬川

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2022
10,18
15:25
市民のための環境公開講座 9月21日(水)第5回
CATEGORY[市民のための環境公開講座]

こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。

9月21日(水)に開催された、「市民のための環境公開講座」の第5回についてレポートします。

 

第5回のテーマは、「四国一小さな徳島県上勝町から広がるゼロ・ウェイスト」、

講師は株式会社BIG EYE COMPANY Chief Environment Officerの大塚桃奈さんです。

なんと本講座史上最年少の講師です(23歳)!

 

今回は上勝町にある「ゼロ・ウェイストセンター」での廃棄物に関する取り組みがテーマとなりますが、

意外なことに大塚さん自身は、上勝町に来る以前にゴミ問題について専門に学んでいたわけでは

ないそうです。元々はファッションに興味があり、留学して勉強もされていたそうですが、

デザインを追求する中でファストファッションに関連した様々な社会課題を目の当たりにし、

サステナビリティの分野に関心を持ったのだとか。そんな時に上勝町のゼロ・ウェイストの取り組みを知り、

ちょうど大学を卒業する年に設立された、ゼロ・ウェイストセンターに就職されています。



そんな大塚さんからは、講座の冒頭でこんな問題提起がありました。

「私たちが日ごろ何気なく使っているものを買うとき、また作るとき、それがゴミになってしまう可能性を

孕んでいることを意識していますか?」

 

私たちが日々使用している様々なモノは、当然ながら誰かが作ってくれたものです。

また私たちが日々作り出している様々なモノは、誰かが使うためのものです。

こうした「見えない誰か」との関係性に思いを馳せることが、「ゼロ・ウェイスト」の精神に繋がると

大塚さんは話してくれました。それでは、上勝町で大塚さんが取り組んでいるゼロ・ウェイストの

取り組みがどんなものなのか、以下で少しご紹介したいと思います。



ゼロ・ウェイストセンターのある上勝町は、人口1,450人、四国で一番小さな町と言われています。

標高100~500mの山々に55の集落が点在している、山深い町です。


そんな上勝町は、2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、「2030年までにゴミに

なるものをゼロにする」ことを宣言しています。

実は上勝町、以前はごみの焼却施設がなく、ほとんどのごみが「野焼き」にされていた地域でした。

しかし法律改正により野焼きができなくなり、導入した焼却炉もダイオキシン規制ですぐに使用禁止に

なってしまう・・・という苦境から、起死回生の対策として生まれたのが上記のゼロ・ウェイスト宣言でした。

つまり、ごみが処理できないのなら、ゴミを出さないようにしよう、という発想の転換です。



具体的な取り組み内容ですが、先ずインパクトがあるのは13種類45分別という、日本一多いと言われる

ゴミの分別方法です。中には「どうしても埋め立てをするもの」「どうしても焼却するもの」という分類が

あるのがユニークですが、ここに至るまでの過程を細かく分類することで、できるだけ多くの「資源化できる

チャンス」を作るための取り組みだそうです。


例えば生ごみはコンポストで肥料化する、不用品は「くるくるショップ」で必要な人に無料提供、その他の

ゴミは住民が自分で「ゴミステーション」に持参し、代わりに「ちりつもポイント」というポイントを付与する

ことで、資源ごみの換金で得た資金を住民に還元する仕組みも作られています。これらの施設が、

大塚さんの働く「ゼロ・ウェイストセンター」の中に備え付けられています。(中にはホテルもあり、

上勝町のゼロ・ウェイスト生活を体験することができます。)




結果として上勝町では、1人あたりが出すゴミの量が全国平均の半分、ゴミ処理にかかる費用は60%削減、

リサイクル率あ80%を達成したそうです。また、こうした取り組みが町のブランド化につながり、資源再生を

活用したビジネスが多く生まれたという効果もあったとか。



最後に、大塚さんからは「ゴミについて考えることは暮らしを整えること」という提言がされました。

モノを買うときに、できるだけ「ゴミにならないものを買う」、捨てる前に「資源として活用できないかを

考える」、こうした問いを自らに投げかける習慣をつけることで、生活の解像度が上がり、新たな豊かさを

手に入れることができるのではないでしょうか。

 

「市民のための環境公開講座」は全9回、11月までまだまだ参加者募集中です。

登録をしておけば後で録画視聴もできますので、少しでも興味のある講座がありましたらぜひ以下の

ホームページからお申込みください!

 

<市民のための環境公開講座・お申込み>

https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2022/

SOMPO環境財団・瀬川

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2022
09,27
14:48
市民のための環境公開講座 9月7日(水)第4回
CATEGORY[市民のための環境公開講座]

こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。

9月7日(水)に開催された、2022年度「市民のための環境公開講座」の第4回をレポートします。

「認識から行動へ ―地球の未来を考える9つの視点―」をテーマとして、全9回でお送りしている

「市民のための環境公開講座」も中盤に入り、ますます注目です!
 

今回は株式会社クラダシ代表取締役社長の関藤竜也さんを講師に迎え、「誰でも気軽に楽しく

食品ロス削減に参加できるクラダシ」をテーマにお話しいただきました。
 
 

講座の前半では、現在の地球が直面している資源問題、ごみ問題、食料問題や気候変動などの

環境認識から、サーキュラーエコノミーやSDGsの考え方などについて丁寧なご説明がありました。

なかなかクラダシの事業についてのお話が始まらないので、そちらを目当てにされていた方の中には

あれ?と感じた方もいるかもしれません。


私もはじめ同じ感想を持ったのですが、お話を聞くうちに考えを改めました。

クラダシのミッションは「ソーシャルグッドカンパニーでありつづける」「日本で最もフードロスを削減する会社」。

そもそも事業の目的が「社会課題を解決すること」なので、社会課題についてしっかりと語ることは、

企業の成り立ちについて語ることとイコールなんだ、と気づいたからです。
 

関藤さんは、阪神大震災や商社時代の中国で見た大量生産・大量消費の現状を原体験に、

「ビジネスの力で課題解決をしよう」という思いで、クラダシを設立されました。

前段で語られたような環境問題の現状は、少し興味のある方なら誰でも聞いたことがある内容だと思います。

しかしそれを自らのミッションとして、会社を辞めて起業できる人はほとんどいないのではないでしょうか。

ミッションドリブンな企業とはこういうものなんだな、と感銘を受けるとともに、社会課題の解決をビジネスに

結び付ける考え方は、私たちの目指す「認識から行動へ」の新しい姿の1つと感じました。

 

さて、本題であるクラダシの事業は「賞味期限が残り少ない食品を、ユーザーに安く販売する」というものです。

非常にシンプルなコンセプトですが、賛同する食品メーカーはブランドアップや廃棄コストの削減、購入者も

食品ロスの削減に貢献しながら割安に買い物ができる、と誰も損をしないビジネスモデルです。
 

これだけであれば類似したサービスはあるかもしれませんが、個人的にはここに「社会貢献」のエッセンスが

加わっていることがクラダシならではと感じました。売上の一部を自分が選んだ社会貢献団体に寄付できたり、

フードロスの累計削減量が確認できたりと、ユーザーを社会貢献に巻き込む工夫が随所に凝らされています。


また、事業から派生した様々な社会課題解決の輪が広がっている様子も印象的でした。社会貢献型の

インターンシップ(クラダシチャレンジ)や、フードバンクの支援、教育事業、限界集落の支援など・・・。

特に、青森県のりんご農家がこれまで廃棄していたB級品をクラダシに出品したところ、年間90万円の

売上になった、というエピソードはインパクトがありました。フードロスの削減という1つの取り組みを

突き詰めていくことが、実は他の社会課題の解決にも繋がっていく、というお話は示唆に富んでおり、

他の様々な問題に取り組む際にも重要な視点になるのではと感じました。
 

フードロス問題に限らず、環境問題の大きな課題は「問題を知った人に一歩踏み出して行動をしてもらう」

ことだと思います。この点、クラダシの取り組みは「お得に買い物をする」という日々の消費行動に結び

ついており、「環境問題に取り組む」というハードルを消費者に感じさせず、むしろ「楽しい体験」に変化

させています。環境問題に取り組む皆さんにとって、大いにヒントになる講演だったのではないでしょうか。

 

「市民のための環境公開講座」は全9回、11月までまだまだ参加者募集中です。

登録をしておけば後で録画視聴もできますので、少しでも興味のある講座がありましたらぜひ以下の

ホームページからお申込みください!

 

<市民のための環境公開講座・お申込み>

https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2022/

SOMPO環境財団・瀬川

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2022
09,07
11:52
市民のための環境公開講座 8月21日(日)特別講座
CATEGORY[市民のための環境公開講座]
こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。



今回は8月21日(日)に開催された「市民のための環境公開講座」の特別講座、
「「環境水族館」 アクアマリンふくしまオンラインツアー」をレポートします。

「市民のための環境公開講座」では例年「特別講座」として、参加者の皆さまの「体験」を
重視した講座を実施しています。
コロナ禍以前は実際にフィールドに出て講座を行い好評をいただいていたのですが、
昨年度からは新たな試みとしてオンラインでのライブ中継形式で講座を開催し、
少しでも臨場感のある講座運営にチャレンジしています。
(今回は初めてYouTube Liveでの開催をしてみました!)



今年は「アクアマリンふくしまオンラインツアー」と銘打ち、飼育展示部上席技師の
春本宜範さんから、実際の施設と中継を繋ぎながら、その魅力を余すことなく
お伝えいただきました。



「アクアマリンふくしま」は2000年7月にオープンした水族館です。
黒潮と親潮がちょうどぶつかる「潮目の海」として非常に豊かな生態系を持つふくしまの
海をテーマに、こどもから大人まで海と環境について楽しく学ぶことのできる施設として
作られました。

また、「海を通して『人と地球の未来を考える』」という理念のもと「環境水族館宣言」を
掲げていることでも注目を集めています。





今回のオンラインツアーで先ず驚いたのは、福島の環境を徹底的に再現した展示の
こだわりです。
海や川にとどまらず、湧水や田んぼに池沼、外来種まで再現した用水路、淡水と海水が
入り混じる河口部分から、果ては人間が生活する以前の自然を再現した縄文の里まで・・・。
展示には植物まですべて福島に自生するものを使用しているということで、福島の
自然環境をすべて閉じ込めたような展示に圧倒されました。



メイン水槽である「潮目の海」にもあっと驚く仕掛けがあり、なんと水槽の前に
寿司カウンターが設置されています。実際に水槽で泳いでいるのと同じ種類の魚を
食べることができるそうで、これは実際に体験してみないとどんな感想を持つのか
想像が難しいな、、と考えさせられました。



アクアマリンふくしまでは屋外に「蛇の目ビーチ」という世界最大のタッチングプールを
有しているのですが、そこに併設された釣り堀でも釣った魚をさばいて食べる経験ができます。
ただ「見て学ぶ」ことで終わらず、体験を通じて「自然の恵みをいただく」意味を伝えたい、
という強い思いを感じます。



広大なビオトープエリアでは地域で行き場を失った生物(宅地造成で埋められた田んぼの
メダカなど)を受け入れて繁殖をしたり、他にも「弁財天うなぎ」をはじめとした
希少生物の保護活動に取り組むなど、幅広い活動をされています。
地域の自然を再現する、という受動的な取り組みだけではなく、能動的に地域の環境保全に
取り組んでいる点が、アクアマリンふくしまが「環境水族館」である所以と感じられました。




全体を通じて、アクアマリンふくしまの取り組みには地域に密着しているからこそ徹底的に
できる、という「凄み」のようなものを感じました。
生態系保全の話題は比較的マクロな視点で語られることが多いように思いますが、アクアマリン
ふくしまのように地域の自然を凝縮した「コピー」を持っておくことは、破壊された生態系を
復活させる切り札になるように思われ、こうした取り組みは益々重要度が増すのでは
ないでしょうか。



いろいろと小難しいことを書きましたが、まずは私も家族と一緒に施設を訪れ、アクアマリン
ふくしまの提唱する学びを体験してみたいと思わせてくれるオンラインツアーでした。
皆さんもぜひ機会を見つけて訪問してみてください!


「市民のための環境公開講座」はまだまだ参加者募集中です。
9月から11月まで、通年講座はあと6回開催予定です。以下リンクからお申込みください!

<市民のための環境公開講座・お申込み>
https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2022/

SOMPO環境財団・瀬川

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2022
08,12
16:59
市民のための環境公開講座 8月3日(水)第3回
CATEGORY[市民のための環境公開講座]

こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。


2022年度「市民のための環境公開講座」の第3回のレポートです。

今回は「認識から行動へ ―地球の未来を考える9つの視点―」をテーマとした

全9回講座の第3回となります。

 

8月3日(水)に開催された今回は、京都大学准教授の深町加津枝さんから

「伝統知と生態系を活かした防災・減災」についてお話いただきました。

 

 防災や減災の分野に限らない話ではありますが、「伝統知」と言われると、

「現代には現代の知を集結した最新のテクノロジーがあるのだから、

わざわざ昔の知恵を引っ張り出してこなくても良いのでは?」と感じる人も

いるのではないでしょうか。(実は私もその一人でしたが…。)

 
今回深町さんにお話しいただいた内容は、上記の問いかけに対する一つの

答えになるのでは、と感じます。今回も私の感想を交えながら講座の概要を

ご紹介しますので、私と同じような疑問をお持ちの方はぜひ最後までご覧ください。

 


深町さんのご専門は「造園学」や「景観生態学」という分野で、人(文化・社会)と

自然がどのように関わっていくか、ということをテーマに長年研究をされています。

研究内容は専門家だけで議論するのではなく、地域の方々との実践を大切に、

という言葉どおり、今回の講座でも膨大な文献調査やフィールドワークで得られた

資料、写真をたくさんご紹介いただきながら、伝統知が防災・減災にどのように

活かされてきたか、実例をお話しいただきました。

 

主に取り上げられたのは、琵琶湖西岸の比良山麓地域の取り組みです。

この地域は急峻な山々と琵琶湖に挟まれた非常に狭い平地のエリアで、

防災・減災の観点からは山間部から流れてくる土砂、水の管理が主要な課題と

なります。あわせて、水田のための農業用水の安定的な確保も重要なテーマです。

 

深町さんからはこの地域の対策例として、①砂防林、②石堤、③内湖の3つを

ご紹介いただきました。①は文字通り集落に土石流が侵入することを防ぐための

樹木、②は同じく洪水、土石流を防ぐための石垣です。③は少し聞きなれない

言葉ですが、内陸部に自然発生した小さな湖(湿地)を、土砂や水の調整弁と

して活用したり、資源活用の場とする取り組みを指しています。

 


いずれも江戸~明治期の古地図と、ドローンが撮影した航空写真を比較しながら

説明いただきましたが、いかに昔の人々が防災・減災の「急所」を押えて対策を

講じていたのかが如実に分かり、とても驚きました。

 

ここで最初の問いに戻るのですが、①~③はいずれも現代の建築技術で

代用できてしまうのでは?という点を考えてみたいと思います。

お話を聞いて私が感じた「現代知」との違いは以下のような点でした。

 

・「伝統知」による対策は、必要な資源がすべて地域内で完結している

砂防林にしても石垣にしても、すべて地域にある自然を活用して作られています。

経済成長のピークを過ぎ、環境配慮や海外情勢の影響で資源活用の制約がどんどん

強まっている現代日本の状況を考えると、非常に重要な知見が詰まっている感じました。

 

・防災・減災のために「開発しない」余白を作る工夫がある

これも個人的に現在の開発と対照的な考え方と感じた部分です。

「伝統知」では、「ここを開発すると防災・減災上リスクがある」という要所を定め、

宗教施設を建てる、言い伝えで開発を抑止する、共有地にして管理する、など

「土地を利用しない」余白を作るために様々な工夫を凝らしています。

 

別の見方をすれば、「個人の利益よりも全体の利益を優先する」考え方が徹底

されており、今日的な開発の考え方とは大きく異なるように思えました。

この「全体」にはもちろん自然環境も含まれていて、総じて自然のままに残す部分

(砂防林、内湖など)と能動的に手を入れる部分(石堤、水門など)の押し引きの

バランスが絶妙と感じました。

 

つまり、「伝統知」が現代より技術的に優れているという話ではなく、根本の発想が

大きく異なる、というのが私の感想です。地域の環境が持つポテンシャルを最大限に

活かしながら開発をする、という考え方には学ぶべき点が多くあると思いますし、

ここに現代の技術があわされば「鬼に金棒」と言ったところではないでしょうか。

 

防災のために「グリーンインフラ」と「グレーインフラ」があるとして、「グリーンインフラ」

が無くてもよい!と考える人はほとんどいないと思います。理想的なグリーンと

グレーのバランスを実現するためにも、いかに「伝統知」の考え方を実際の開発に

実装していくか、みんなで知恵を絞る必要があるのではないでしょうか。

(講義後の質疑もこの点に集中していたのが印象的でした。)


 

次回は9月7日(水)18時から、

「誰でも気軽に楽しく食品ロス削減に参加できるクラダシ」をテーマに、株式会社クラダシ

代表取締役社長CEOの関藤竜也さんに講演いただきます。

 

また、あわせて8月21日(日)10時~11時30分に開催する特別講座、「環境水族館」

アクアマリンふくしまオンラインツアー参加者もあわせて募集中です!

以下リンクからご登録いただけますので、皆さま奮ってご参加ください。

 

<市民のための環境公開講座・お申込み>

https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2022/

SOMPO環境財団・瀬川

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