こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。 今回は9月29日(水)に開催された、「市民のための環境公開講座」第3回のレポートを お届けします。 第3回は東京経済大学全学共通教育センター准教授の大久保奈弥さんを講師に迎え、 「サンゴとサンゴ礁生態系の現状」をテーマに講演いただきました。 大久保さんは大学院生時代から長年サンゴの研究を行い、2017年には2つの新しい亜目 (目と科の間に置かれる区分)を提唱されたことで、サンゴの分類学に大きな貢献をされた方です。 講演の合間には自宅で育てているサンゴとのツーショットも見せていただき、全編を通じて サンゴへの愛があふれる講座でした。 講座は、「サンゴとサンゴ礁の違いは?(⇒サンゴ礁はサンゴの死がいが積み重なってできた 地形のこと)」、「サンゴはどんな動物?(⇒イソギンチャクと同じ刺胞動物)」という 問いかけから始まりました。 今回はアンケート機能を活用することで双方向のやり取りが生まれ、受講者の皆さんも講座に 入り込みやすかったのではないでしょうか。 続いて普段はあまり見る機会のない、サンゴの発生の様子、着底から群体として成長する過程、 褐虫藻との共生など、神秘的な画像を交えながらサンゴの生態をご紹介いただきました。 この説明の後、大久保さんの問いは私たち人間とサンゴの関わり方に展開していきます。 「なぜサンゴ(サンゴ礁)を守る必要があるのでしょうか?」 サンゴは、私たちに様々な恩恵をもたらしてくれます。生態系を保全することはもちろん、 高波を防ぐ調整効果や観光資源としての文化的な貢献も非常に大きいものです。 (八重山諸島にサンゴがもたらす経済効果は230億円!という試算も。) 海洋国である日本は世界でも特にこの恩恵を大きく受けている国ですが、そのサンゴは 2050年までにはなくなってしまう、という予想もされており、非常に危機的な状況に あります。では、どうすればサンゴを守ることができるのでしょうか。 ここから講演は核心に迫っていきます。日本では「サンゴを復活させるため」に、これまで 多くの時間と資金を「移植」という試みに費やしてきました。自治体や国の事業として行われる 大規模なものから、ふるさと納税やクラウドファンディングを活用したもの、手法も有性・無性 の移植法や再生医療を活用したものなど、多種多様です。 しかし、残念ながらこれらの取り組みはいずれも大きな成果を収めるには至っていません。 「移植したサンゴの9割が死亡」、「19年間、20億円をかけてほぼ成果なし」といった、 ショッキングなデータも紹介されました。 そして、この非常に困難な再生活動をしている横で、埋め立てや空港建設工事により移植した 面積の100倍以上のサンゴが失われています。この再生と破壊のペースを比較すれば、 「移植ではサンゴを復活させることはできない」という結論を逃れることができません。 行政や企業は「サンゴを移植して復活させる!」というプラスの面だけを過剰に喧伝し、 むしろ「再生できるから破壊しても大丈夫」という楽観的な言説を助長しているという指摘は、 私たちにとって非常に重いものでした。 では、私たちがサンゴを守るために何ができるのか?という問いに対して、大久保さんの答えは 明快です。それは「今あるサンゴを守ること」。 サンゴが住める環境をしっかりと守ることができれば、サンゴはちゃんと増えていきます。 講座の最後には、この環境を守るための基準を条例などでしっかりと定め、生物多様性に応じた 開発の優先度をつけることで、サンゴを守ることができる、という力強いメッセージを いただきました。 耳障りのよい情報に流されず、不都合な事実から目を背けない大久保さんのスタンスは、 サンゴの問題に限らず、環境問題に取り組もうとする皆さんの模範になる姿勢と感じました。 参加した皆さんにとっても、多くの刺激を受ける講座となったのではないでしょうか。 今回の講座で、「市民のための環境公開講座」PART1:気候変動とエネルギーの転換は 終了となります。 次回からのテーマは、PART2:企業が取り組むサステナビリティです。 第1弾は10月13日(水)18時から、 「すべての人のKirei Lifestyleへの貢献をめざして」をテーマに、花王株式会社ESG活動推進部 マネジャーの井上紀子さんに講演いただきます。ぜひご視聴ください! <市民のための環境公開講座・お申込み> https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2021/
SOMPO環境財団・瀬川