2022 08,12 16:59 |
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こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。
8月3日(水)に開催された今回は、京都大学准教授の深町加津枝さんから 「伝統知と生態系を活かした防災・減災」についてお話いただきました。
防災や減災の分野に限らない話ではありますが、「伝統知」と言われると、 「現代には現代の知を集結した最新のテクノロジーがあるのだから、 わざわざ昔の知恵を引っ張り出してこなくても良いのでは?」と感じる人も いるのではないでしょうか。(実は私もその一人でしたが…。) 答えになるのでは、と感じます。今回も私の感想を交えながら講座の概要を ご紹介しますので、私と同じような疑問をお持ちの方はぜひ最後までご覧ください。 深町さんのご専門は「造園学」や「景観生態学」という分野で、人(文化・社会)と 自然がどのように関わっていくか、ということをテーマに長年研究をされています。 研究内容は専門家だけで議論するのではなく、地域の方々との実践を大切に、 という言葉どおり、今回の講座でも膨大な文献調査やフィールドワークで得られた 資料、写真をたくさんご紹介いただきながら、伝統知が防災・減災にどのように 活かされてきたか、実例をお話しいただきました。 主に取り上げられたのは、琵琶湖西岸の比良山麓地域の取り組みです。 この地域は急峻な山々と琵琶湖に挟まれた非常に狭い平地のエリアで、 防災・減災の観点からは山間部から流れてくる土砂、水の管理が主要な課題と なります。あわせて、水田のための農業用水の安定的な確保も重要なテーマです。 深町さんからはこの地域の対策例として、①砂防林、②石堤、③内湖の3つを ご紹介いただきました。①は文字通り集落に土石流が侵入することを防ぐための 樹木、②は同じく洪水、土石流を防ぐための石垣です。③は少し聞きなれない 言葉ですが、内陸部に自然発生した小さな湖(湿地)を、土砂や水の調整弁と して活用したり、資源活用の場とする取り組みを指しています。 いずれも江戸~明治期の古地図と、ドローンが撮影した航空写真を比較しながら 説明いただきましたが、いかに昔の人々が防災・減災の「急所」を押えて対策を 講じていたのかが如実に分かり、とても驚きました。 ここで最初の問いに戻るのですが、①~③はいずれも現代の建築技術で 代用できてしまうのでは?という点を考えてみたいと思います。 お話を聞いて私が感じた「現代知」との違いは以下のような点でした。
・「伝統知」による対策は、必要な資源がすべて地域内で完結している 砂防林にしても石垣にしても、すべて地域にある自然を活用して作られています。 経済成長のピークを過ぎ、環境配慮や海外情勢の影響で資源活用の制約がどんどん 強まっている現代日本の状況を考えると、非常に重要な知見が詰まっている感じました。
・防災・減災のために「開発しない」余白を作る工夫がある これも個人的に現在の開発と対照的な考え方と感じた部分です。 「伝統知」では、「ここを開発すると防災・減災上リスクがある」という要所を定め、 宗教施設を建てる、言い伝えで開発を抑止する、共有地にして管理する、など 「土地を利用しない」余白を作るために様々な工夫を凝らしています。
別の見方をすれば、「個人の利益よりも全体の利益を優先する」考え方が徹底 されており、今日的な開発の考え方とは大きく異なるように思えました。 この「全体」にはもちろん自然環境も含まれていて、総じて自然のままに残す部分 (砂防林、内湖など)と能動的に手を入れる部分(石堤、水門など)の押し引きの バランスが絶妙と感じました。
つまり、「伝統知」が現代より技術的に優れているという話ではなく、根本の発想が 大きく異なる、というのが私の感想です。地域の環境が持つポテンシャルを最大限に 活かしながら開発をする、という考え方には学ぶべき点が多くあると思いますし、 ここに現代の技術があわされば「鬼に金棒」と言ったところではないでしょうか。 防災のために「グリーンインフラ」と「グレーインフラ」があるとして、「グリーンインフラ」 が無くてもよい!と考える人はほとんどいないと思います。理想的なグリーンと グレーのバランスを実現するためにも、いかに「伝統知」の考え方を実際の開発に 実装していくか、みんなで知恵を絞る必要があるのではないでしょうか。 (講義後の質疑もこの点に集中していたのが印象的でした。) 次回は9月7日(水)18時から、 「誰でも気軽に楽しく食品ロス削減に参加できるクラダシ」をテーマに、株式会社クラダシ 代表取締役社長CEOの関藤竜也さんに講演いただきます。
また、あわせて8月21日(日)10時~11時30分に開催する特別講座、「環境水族館」 アクアマリンふくしまオンラインツアー参加者もあわせて募集中です! 以下リンクからご登録いただけますので、皆さま奮ってご参加ください。
<市民のための環境公開講座・お申込み> https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2022/ |
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2022 07,25 17:45 |
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こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。
2022年度「市民のための環境公開講座」の第2回が開催されましたので、 大自然を舞台として行われる超長距離レースのことです。講師のお二人が参加
しているレースは最低でも500km、夜間も含めて3日間以上も続くような 過酷な条件がメインだそうで、4人1組のチームで助け合いながら、道なき道を 踏破するレースを数多く完走されています。 ということで、今回の講師は「市民のための環境公開講座」では少し珍しく、 いわゆる「環境問題」の専門家の方ではありません。しかし、お二人のお話には
私たちが「認識から行動へ」踏み出す背中を押してくれるような、力強いメッセージが たくさん込められていました。 今回も私の感想を交えながら、講座の内容をご紹介したいと思います。 先ずは田中陽希さんから、レース中の雄大な自然をとらえた多くの写真とともに、 まさしく「手つかずの自然」の雄大な景色が広がっていました。目の前に迫る高層ビルの
ような氷山、底の見えない湿原、ジャガーの唸り声が響く草原…。 美しくも厳しい自然の中でレースを経験する陽希さんからは、一見正反対とも思える 2つのメッセージが紹介されました。 「手つかずの自然は人間に容赦がない」、しかし「自然の助けがなければ生きられない」。 陽希さんの言葉は飼いならされていない自然の驚異を生々しく伝えてくれます。
ただ、アドベンチャーレースのアプローチはそんな自然を「征服する」ものではないと
感じます。自然の危険にさらされながらも、湧き水で喉を潤し、木の実で栄養を補給し、 その恵みを受けなければ完走することができない、という「共存」「適応」の姿勢こそが この競技の本質なのでは、ということが伝わってくるメッセージでした。 続いて田中正人さんからは、レース活動を通じて感じられている社会課題について、 群馬県でラフティングツアー会社を設立しています。しかし、コロナ禍でレースもツアーも
中止になってしまい活動がままならず、地域の農業や林業を手伝うことで生活の糧を得る
国内林業はまったく採算が取れずに補助金漬けの不健全な状況に陥っていること、
大型機械導入による高コスト体質化とモラルの低下、省エネ住宅義務化による需要の
偏りなど・・・。中でも、国産木材の需要が少ない中で、東南アジアからは森林が消失
してしまうほど大量の木材を輸入しているあべこべの現状は、前回講座で言及された 「自分の国の環境だけ守っても意味がない」という石井さんの言葉を思い出させる内容でした。 お二人の話から共通して感じたのは「体験」の重要性です。レースも林業も実態を肌で 感じた人にしか分からない「何か」があるということが伝わってきました。
本講座でもテーマに掲げているように、環境問題では「頭で理解すること」と「実際に
行動に移すこと」の間に大きな隔たりがあります。このギャップを乗り越えるための 一番の薬は、実は「体験」によって得られる感動や衝撃なのかもしれません。 行動するためにまずは体験を・・・とは堂々巡りのような話になってしまいますが、
難しいことを考えずともアドベンチャーレースに全力で取り組むお二人の姿を見れば、 人知れず多くの人たちが「体験」の場に向かい、行動への一歩を踏み出すきっかけに なるのではと感じます。 環境問題と言えば破壊される自然の惨状に気が滅入るような話も多い中で、前向きに 次回は8月3日(水)18時から、
「伝統知と生態系を活かした防災・減災」をテーマに、京都大学准教授の深町加津枝さんに
講演いただきます。 豊かな自然の恵みと激甚化する自然災害への対応をどのように両立するか、皆さんも一緒に
考えましょう!ご参加お待ちしています! <市民のための環境公開講座・お申込み>
SOMPO環境財団・瀬川 |
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2022 07,08 15:30 |
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こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。 いよいよ2022年度も「市民のための環境公開講座」が開講されました。 記念すべき30周年となる今年度は、「認識から行動へ ―地球の未来を考える9つの視点―」を 全体テーマとして、さまざまな切り口で地球環境とわたしたちの暮らしのつながりを考えていきます。 7月6日(水)18時00に実施した第1回は、東京大学理事、グローバル・コモンズ・センターの 初代ダイレクターである石井菜穂子さんを講師に迎え、「安定した地球環境(グローバル・ コモンズ)を未来に引き継ぐために」というテーマでお話しいただきました。 何か、それは社会システムをどのように変えれば克服できるのかというテーマを軸に、一見すると 実感を得づらい地球環境(グローバル・コモンズ)と私たちの暮らしの繋がりをわかりやすく 解説していただけた、第1回講座にふさわしい内容でした。 石井さんがお話した内容や、私なりの解釈や感想も含めてご紹介したいと思います。 地球の長い歴史の中で、温暖で安定した気候を保っている1万2000年前頃から現在までを 「完新世」と呼びます。これは人類が農耕をはじめてからの期間とほぼ一致しています。 安定した食料供給に支えられて人間は爆発的に人口を増やし、都市化を進め、分業を行うことで 様々な技術革新を遂げてきました。特に産業革命以降の約200年間は飛躍的な経済活動の 拡大が進みましたが、これは裏を返せば飛躍的に地球環境への負荷が高まったこととイコール でもあります。実際に、この200年間で地球環境が大きく変化してしまったことは種々の指標から 明らかで、その影響は地質学上「人新世」という新たな分類が提唱されていることに象徴されています。 今日の環境活動の原点であると言えます。 講座では、この問いに答えるためのモデルとして、「プラネタリー・バウンダリー」という考え方が 紹介されました。完新世の地球環境が安定していた要因を9つに分類し、それぞれの要因ごとに 現状の負荷を測定、「あとどれくらい持ちこたえられるのか(もしくはもう限界を超えているのか)」を 示したものです。2030年を目標に気候変動を1.5℃に抑えようとするパリ目標や、生態系保全 分野では30by30などの目標が定められていますが、これらの目標は「そこを超えたら地球環境は 限界を超えてしまう」というプラネタリー・バウンダリーから逆算して定められた目標と言えます。 言い換えることができます。地球環境システムを変えることはできませんから、私たちが現在の 経済システムを変えることでしか、この問題を解決することはできません。これは、経済発展の 担い手である世界中のビジネスリーダーも同様の認識をしています。 ここで、講師の石井さんからは重要なヒントが2つ示されました。1つは、「SDGsのような細分化 された目標を個別に捉えてはいけないこと」、もう1つは「共有財産を守る、というローカルの 考え方を、どうやってグローバルに応用するかを考えること」です。 SDGsに関わる食料、エネルギー、生産消費、都市、技術革新などの課題は、それぞれが複雑に 関連しあっており、バラバラに捉えても解決することはできません。SDGsのウェディングケーキに 示されているように、全体を1つの包括的なシステムと考えることが重要になります。 これは地理的な考え方も同様で、先進国がいくら自国内だけで目標達成をしても、それが食料や 衣料品を供給している途上国に低賃金労働を強い、自然環境を破壊するという犠牲の上に 成り立っているのであれば、地球規模での問題は何ら解決されておらず、本末転倒と言えます。 私たちが日々行っている行動、例えばスーパーで何気なく食材を選ぶその選択が、引いては 気候変動を助長し、遠く離れた国の生態系を壊す選択になっているかもしれません。現在は 技術革新により、こうした影響が可視化され、距離の壁を越えたネットワークが実現していることで、 以前よりはるかに問題を「自分ごと」として感じやすくなっているはずです。 私たち一人ひとりが地球環境問題の当事者であることを自覚して行動することが、将来の世代に 豊かな地球環境を引き継ぐために何よりも必要であるということが、本講座のメッセージだった のではないでしょうか。 プロアドベンチャーレーサーの田中陽希さん、田中正人さんに講演いただきます。 様々なメディアにも取り上げられ大注目のお二人の対談、ぜひご視聴ください! <市民のための環境公開講座・お申込み> https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2022/ |
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2021 12,27 16:53 |
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こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。
今回は12月8日(水)に開催された、「市民のための環境公開講座」PART3・第3回、 今年度最終回となる講座のレポートをお届けします。
今回はPART3「わたしたちにできる選択」の第3回として、食品ロスジャーナリストの
井出留美さん、NPO法人循環生活研究所・理事長の永田由利子さんを講師に迎え、 「食品ロスをなくす方法」をテーマに、対談形式で講演いただきました。 最初のパートでは、井出さんから「日本と世界の食品ロスの現状と対策」について
お話いただきました。一口に「食品ロス」と言っても、国際的には「Food Loss」と 「Food Waste」の2つの概念があります。「Food Loss」は生産から加工、流通までの 過程で発生する食品の廃棄のこと、「Food Waste」は小売・外食・家庭から発生する 食品の廃棄のことです。日本ではこれらをまとめて、「まだ食べられるのに廃棄される 食品」のことを「食品ロス」と呼んでいます。 では、日本ではどれくらいの食品ロスが発生しているのでしょうか。
農水省・環境省の推計によると、年間570万トンの食品ロスが発生しているとのことです。 これは世界で行われている食糧援助量420万トンの約1.4倍、別の表現をすれば、 東京都民が1年間に食べる食品の量と同等ということになります。 食品ロスの内訳は事業者と家庭でほぼ半々ですが、ゴミの処理について考えると、
また違う問題点が浮かび上がってきます。 事業者の出したゴミは産業廃棄物として処理されますが、小売店や家庭から出されたゴミは、 事業系一般廃棄物、家庭ゴミとして「税金で」焼却処分されることになります。 これにかかる費用は年間で2兆円にもなるとか!食品ロスの問題が環境だけではなく、 経済的にも大きな問題となっていることが分かります。 対策として、よく3R(リサイクル、リユース、リデュース)ということが言われますが、
井出さんによれば、最も重要なのは「リデュース(蛇口の元を締める)」ことです。 環境問題への取り組み、というとリユース、リサイクルが注目されがちですが、 発生する廃棄物の量を減らすことが最も有効な対策である、という事実から目を背けては いけません。 廃棄量を減らすための対策としては、店舗で食品廃棄量を計測するという米国の取り組みや、 同じく廃棄量の見える化で成功した京都市の取り組み、韓国での生ごみ従量課金制などの 事例が紹介されました。また、福岡県大木町や宮崎県新富町で行われている、「生ごみ→ 肥料化→食品生産」という食農循環の取り組みは、後段のコンポストにも繋がる事例でした。 続いて、永田さんからは「コンポストを使った楽しい循環生活」と題して、地域に密着した
ローカルフードサイクリングについてお話いただきました。主にコンポストを活用した、 「有機性廃棄物(いわゆる生ごみ)の資源化」を目指す取り組みです。 永田さんは2000年に福岡県でコンポストを活用した堆肥講座を始められてから、
徐々に対象を全国に広げ、指導者育成にも取り組まれています。 講座の受講者は現在までで延べ245万人以上!ということで、非常に精力的に活動を 推進されています。 コンポストの利点は何と言っても、生ごみを入れるだけ、という手軽さにあります。
家庭でも簡単に始めることができ、「食べ物が栄養となり、また次の食べ物となる」という 循環を感じることができます。 永田さんは半径2kmの小さな循環を「自分ゴトで捉えることができる範囲」として、 「ローカルフードサイクリング」を提唱し、地域の住民や企業を巻き込んで活動をされて いるとのことでした。 「市民のための環境公開講座」では、受講者の皆さんに環境問題についての知識を得て
いただくことはもちろんですが、得た知識をもとに「行動」に踏み出していただくことを 大きなテーマとしています。 受講後のアンケートでも、「講座を聞いて何か行動してみようと思いましたか?」という 項目を必ずお聞きしていますが、今回の講座は「行動してみようと思う」と答えた方が 最も多い回となりました。(実は私も受講した日にコンポストを注文しました。) 今年度の講座は今回で終了となりますが、また来年の講座が開講されるまで、本講座を 受講された一人でも多くの皆さんが「行動」の第一歩を踏み出し、それが集まって
大きな力となることを願っております。 それでは、また来年の講座でお会いしましょう! SOMPO環境財団・瀬川 |
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2021 12,16 14:09 |
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こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。
12月1日(水)に開催された、「市民のための環境公開講座」PART3・第2回の レポートをお届けします。
皆さんは、自分がいまどの「流域」に暮らしているかを知っているでしょうか?
また、私たちが生活で使用している「水」はどこから来て、どこに行くのか考えたことが あるでしょうか? 本講座は、橋本さんのこのような問いかけから始まりました。 講座のタイトルにもなっている「流域」という考え方は、都道府県や市町村などの行政区分で
地域を分ける考え方とは異なり、「どの水源から水を得て生活しているか」という観点で、 私たちの居住する場所を捉えなおすものです。 例えば、群馬県から栃木、千葉、埼玉、東京にまたがる広大な地域は、まとめて「利根川流域」 と考えることができます。(余談ですが、この流域別の地域区分は江戸時代の藩の分け方と よく似ているそうです。) SDGsをはじめとする目標は、国際的な課題を共有するという意味ではとても意義深いもの
ですが、目標が大きすぎて日々の生活に落とし込みづらいという側面もあります。 「流域」という単位はより生活に密着したものであるため、この範囲の中で「水」を切り口に 様々な問題に取り組むことで、生活に根差した取り組みがしやすくなり、引いては社会全体の 大きな課題解決につなげることができます。 橋本さんが冒頭に提示したもう一つの問いについてはどうでしょうか。私たちが生活で使用
している「水」と言えば、雨水、水道水、飲料水などが一般的に思い浮かぶと思います。 しかし、実は私たちが日々購入している食料品や衣服なども、生産される過程で非常に多くの
水を使用しています。例えば、肉じゃがに使用する材料だけをとっても、実に1,500リットル以上 の水が使われていることになります(このような考え方を「仮想水」と言います)。 これは、豚肉の生産のために海外で生産された大量の飼料が使われており、その生産過程で 使用する水が含まれると考えるからです。 橋本さんからは、企業による水の使用についても問題提起がなされました。例えばアパレル企業
を考えると、私たちが手に取る商品には「水」のイメージがあまりありません。 しかし、その生産過程を考えると、原料となる綿花の生産、染色過程では大量の水を使用している ことがわかります。しかも、これらは食料の例と同様に海外で生産されていることが多いため、 結果的に国をまたいだ多くの流域に影響を及ぼしているということになります。 水の利用に関しては、企業は①操業リスク、②財務リスク、③法的リスク、④評判リスクなど 様々なリスクをはらんでおり、今後は今まで以上に健全な水の利活用が求められるとの指摘が ありました。 個人的に非常に重要だと感じたのは、令和3年7月に「流域治水関連法」が改正されたという
お話です。改正前は、法律での治水対策の対象は河川区域に限定されており、主体も河川管理者 と定められていました。しかし、改正後は集水域や氾濫域を含めた「流域」全体での治水を 行うこととされ、主体も流域に所在する自治体・企業・住民(流域人)が担うことになりました。 これからは流域というコミュニティの実態に合わせた管理が必要となり、例えばインフラの ダウンサイジングや、水田や森林の貯水機能の保全、水力を活用したエネルギーとの連携など、 水を切り口に様々な地域課題に取り組むことが求められることになります。 気候変動などの環境問題は、知識としては危険性を認識しているものの、スケールが大きすぎて
実感を伴いづらい(=行動に繋がりづらい)という課題がついて回ります。 水という、私たちにとって最も身近な自然の恩恵を意識することで、結果的に森林保全、 エネルギー、食糧といった様々な問題の関連に気づくというアプローチは、身近な行動変容を 促すという意味で非常に有効なものに思えました。 「コミュニティとしての流域」の今後の広がりに期待したいと思います。 「食品ロスをなくす方法 日本と世界の食ロス削減最前線」をテーマに、今年度では初めて
となる、対談形式での講座をお届けします。(※)。
講師は食品ロス問題ジャーナリストの井出留美さん、NPO法人循環生活研究所理事長の
永田由利子さんのお二人です。
※講座は既に終了しております。 SOMPO環境財団・瀬川 |
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