こんにちは。SOMPO環境財団の瀬川です。
いよいよ2022年度も「市民のための環境公開講座」が開講されました。
記念すべき30周年となる今年度は、「認識から行動へ ―地球の未来を考える9つの視点―」を
全体テーマとして、さまざまな切り口で地球環境とわたしたちの暮らしのつながりを考えていきます。
7月6日(水)18時00に実施した第1回は、東京大学理事、グローバル・コモンズ・センターの
初代ダイレクターである石井菜穂子さんを講師に迎え、「安定した地球環境(グローバル・
コモンズ)を未来に引き継ぐために」というテーマでお話しいただきました。 地球環境が直面している様々な問題を大局的にとらえ、現在の危機を引き起こしている要因は
何か、それは社会システムをどのように変えれば克服できるのかというテーマを軸に、一見すると
実感を得づらい地球環境(グローバル・コモンズ)と私たちの暮らしの繋がりをわかりやすく
解説していただけた、第1回講座にふさわしい内容でした。
石井さんがお話した内容や、私なりの解釈や感想も含めてご紹介したいと思います。
地球の長い歴史の中で、温暖で安定した気候を保っている1万2000年前頃から現在までを
「完新世」と呼びます。これは人類が農耕をはじめてからの期間とほぼ一致しています。
安定した食料供給に支えられて人間は爆発的に人口を増やし、都市化を進め、分業を行うことで
様々な技術革新を遂げてきました。特に産業革命以降の約200年間は飛躍的な経済活動の
拡大が進みましたが、これは裏を返せば飛躍的に地球環境への負荷が高まったこととイコール
でもあります。実際に、この200年間で地球環境が大きく変化してしまったことは種々の指標から
明らかで、その影響は地質学上「人新世」という新たな分類が提唱されていることに象徴されています。 この人間の活動による負荷に「地球があとどれくらい持ちこたえられるか」という問いが、
今日の環境活動の原点であると言えます。
講座では、この問いに答えるためのモデルとして、「プラネタリー・バウンダリー」という考え方が
紹介されました。完新世の地球環境が安定していた要因を9つに分類し、それぞれの要因ごとに
現状の負荷を測定、「あとどれくらい持ちこたえられるのか(もしくはもう限界を超えているのか)」を
示したものです。2030年を目標に気候変動を1.5℃に抑えようとするパリ目標や、生態系保全
分野では30by30などの目標が定められていますが、これらの目標は「そこを超えたら地球環境は
限界を超えてしまう」というプラネタリー・バウンダリーから逆算して定められた目標と言えます。 つまり、現在の地球環境問題は「人間の経済システム」と「地球環境システム」の衝突であると
言い換えることができます。地球環境システムを変えることはできませんから、私たちが現在の
経済システムを変えることでしか、この問題を解決することはできません。これは、経済発展の
担い手である世界中のビジネスリーダーも同様の認識をしています。
ここで、講師の石井さんからは重要なヒントが2つ示されました。1つは、「SDGsのような細分化
された目標を個別に捉えてはいけないこと」、もう1つは「共有財産を守る、というローカルの
考え方を、どうやってグローバルに応用するかを考えること」です。
SDGsに関わる食料、エネルギー、生産消費、都市、技術革新などの課題は、それぞれが複雑に
関連しあっており、バラバラに捉えても解決することはできません。SDGsのウェディングケーキに
示されているように、全体を1つの包括的なシステムと考えることが重要になります。
これは地理的な考え方も同様で、先進国がいくら自国内だけで目標達成をしても、それが食料や
衣料品を供給している途上国に低賃金労働を強い、自然環境を破壊するという犠牲の上に
成り立っているのであれば、地球規模での問題は何ら解決されておらず、本末転倒と言えます。
私たちが日々行っている行動、例えばスーパーで何気なく食材を選ぶその選択が、引いては
気候変動を助長し、遠く離れた国の生態系を壊す選択になっているかもしれません。現在は
技術革新により、こうした影響が可視化され、距離の壁を越えたネットワークが実現していることで、
以前よりはるかに問題を「自分ごと」として感じやすくなっているはずです。
私たち一人ひとりが地球環境問題の当事者であることを自覚して行動することが、将来の世代に
豊かな地球環境を引き継ぐために何よりも必要であるということが、本講座のメッセージだった
のではないでしょうか。
次回は7月20日(水)18時から、「(対談)アドベンチャーレースの世界から見る自然界」をテーマに、
プロアドベンチャーレーサーの田中陽希さん、田中正人さんに講演いただきます。
様々なメディアにも取り上げられ大注目のお二人の対談、ぜひご視聴ください!
<市民のための環境公開講座・お申込み>
https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2022/ SOMPO環境財団・瀬川
今回は11月10日(水)に開催された、「市民のための環境公開講座」PART2・第3回の レポートをお届けします。
今回はPART2「企業が取り組むサステナビリティ」の第3回ということで、オールバーズ 日本法人マーケティング本部長の蓑輪光浩さんを講師に迎え、「カーボンニュートラルな 世界を目指す、オールバーズ」をテーマに講演いただきました。
オールバーズという企業、皆さんはご存知でしょうか?冒頭でアンケートを取ったところ、 おおよそ2割くらいの方が「知っている」と回答されていました。日本での一般的な認知度は まだこれから、という段階かもしれませんが、海外セレブやトップアスリートを中心に熱狂的な 支持を集めるスニーカーブランドで、これからどんどん耳にする機会が多くなるかもしれません。
オールバーズはアメリカのサンフランシスコで2016年に創業された企業です。元プロサッカー 選手のティム・ブラウン氏と、再生可能エネルギーの専門家、ジョーイ・ズウィリンガー氏という、 まったく専門分野の異なる二人が立ち上げたブランドです。スポンサー付きで派手な装飾の スニーカーに疑問を感じていたティムが、「ミニマルなデザインのウール製の靴を作る」という 着想から、「シンプルに、快適に」をコンセプトに起業をしました。
この靴はシリコンバレーを中心に大ヒットし、TIME誌でも「世界一快適な靴」と称されています。 レオナルド・ディカプリオ、バラク・オバマ、ティム・クックといった錚々たる方たちが愛用 しているブランドということで、2019年に日本に進出した時には大きな話題を呼びました。 実は昨年世界で一番売り上げの多かった店舗は原宿店だったそうです。
オールバーズの大きな特徴として、企業哲学の中心に「サステナビリティ」を据えていることが 挙げられます。オールバーズは「2030年カーボンニュートラル」を目指して(世界の目標 より20年早く!)、「ビジネスの力で気候変動を逆転する」と明言しています。 サステナは儲からない、という風潮が根強くありますが、ビジネスの力でこの常識と行動を変え、 しっかりと収益を上げながら持続可能な世界を実現することを目指しているとのことでした。
その目的を達成するため、ウール素材で洗濯ができる商品づくり(廃棄されないための工夫)、 商品ごとにカーボン・フットプリントを表示する(しかもカーボン・フットプリントが以前の 商品を上回るものは開発しない)、サトウキビ製のソール開発(オープンソース化して競業他社 にもノウハウ提供)、Bコーポレーションの認証取得など、これまでの常識に捉われない、 徹底した取り組みを行っています。
20年先を見据えたサステナビリティの取り組みは、「孫の世代に「何をしていたんだ」と 言われないように」という強い意志で臨んでいる、というお話はとても印象的でした。
講義全体を通じて、企業のミッション、ビジョン、課題、目標、自己認識やターゲットといった すべての要素が非常に分かり易く言語化され、企業内で共有化されていることが伝わってきました。 蓑輪さんからは、「ぜひ店舗に足を運んでほしい、当社のミッションを一番熱く語るのは店舗の スタッフです」とのお話があり、私も一度店舗スタッフの方から話を聞いてみたくなりました。 (実際に店舗スタッフがすばらしい!という参加者からの声もありました。)
サステナビリティを中心に据えながら品質の高い商品で収益をあげ、明確な言葉で目的や課題の 共有が図られている。新しい時代の企業の在り方を教えていただけた講座でした。
今回の講座で、「市民のための環境公開講座」PART2「企業が取り組むサステナビリティ」は 終了となります。
次回からのテーマは、PART3「わたしたちにできる選択」です。
第1回は11月23日(火)13時30分から(※)、「地球にやさしい食を探す旅」をテーマに、 立命館大学・食マネジメント学部教授の天野耕二さんに講演いただきます。 ぜひご視聴ください!
※これまでの講座と開始時間が異なりますのでご注意ください!
https://www.sompo-ef.org/kouza/kouza2021/
SOMPO環境財団・瀬川